因果は巡る糸車

このたびの山口県美術展覧会で審査員だった現代美術家の岩崎貴宏氏の審査講評冒頭の言葉に好感を覚える。「大賞を決定し控室で作家名を聞いた時、驚きと共に鳥肌がたった。なんと数奇な運命だろう。大賞を獲った吉村大星さんは16年前、私がこの県展に挑戦した際、最終決戦で敗れ、その時大賞に輝いた山口県が誇る鬼才・吉村芳生さん、そのご子息だった。父から子へ受け継がれた圧倒的な才能に、県展を通して2度も魅了されるとは思いもしなかった」という、率直に胸のうちを明かした文面に共感してしまった。

ちなみに大賞受賞者の吉村さんと優秀賞受賞者の岩崎さんは、この時に審査員だった椹木野衣氏の計らいで、多彩な日本アーティストを紹介する「六本木クロッシング2007:未来への脈動」へ出展することになる。これは現在進行形の美術の動向に注目する森美術館ならではのシリーズ展で、4人のキュレーターによる活発な議論を通して、枠に収まりきれないエネルギーと影響力をもつ、今見せるべき作家36人による展覧会だ。なんと県美展で大賞を競い合った二人はビックなステージに立ち、そして、高く評価されて大きく飛躍させるきっかけを掴む。

つまり、吉村さんと岩崎さんは戦友と言うべき仲だろう。そんな因果もあってなのか、大星君を大賞選出に関わるなんて、ドラマ以上のドラマである。しかし、「ザルの惑星」が大星君の作品だったことは、審査員をはじめ、公開審査会に参加した方も、県美の学芸員さんも見抜けなかったくらい、新境地からのチャレンジであって、かつ、1年間という月日をかけて、新しいタイプの作品制作に取り組んだ集中力と努力の賜物だと言えよう。あらためて素晴らしいと称賛させていただきます!