運命

2007年新春、吉村芳生さんから大星君が中学卒業後すぐに弟子入りして一緒にやることになったと告げられる。この時、私は大丈夫なのだろうかと不安が頭をよぎったが、吉村さんはとても嬉しそうなお顔だったので、これでいいのだと思った。実際、後から考えれば、この選択は正しい。これを機に吉村さんは「これまで観たことがないような作品を自分の手で創りたい」と公言し、ぶざまな姿を見せられぬとトップギアに入ったからだ。

そして、熱気むんむんで創られた作品「徳地に住んで見えてくるもの(色鉛筆で描く…)」は県美術展で大賞を獲得。その勢いのまま、森美術館の「六本木クロッシング2007:未来への脈動」に出展したところ好評を博し、英国のオークション会社に目に留まり、海外で作品が取引されることになる。それから3年後、2010年12月に県立美術館で「吉村芳生展 」が行われ、約4万3千人という県内在住の存命作家として最多入場者数の記録と、多くの人々の記憶に残る伝説を打ち立てた。

 こうして振り返ってみると、2007年に親子で活動するようになってから運命は大きく変わる。それは吉村さんが望んでいる方へ進んでいき、最晩年は華やかなステージで活躍するチャンスにめぐまれた。また、大星君は早くから超絶技巧の技術や表現していくセンスを磨き、さらに美術界で生きるための処世術から哲学に至るまで、いろんなことを口伝えすることができた。吉村さんの独創的な世界は受け継がれて、これからも新しい作品を誕生させるはずだ。大星君の活躍を心より祈っている。