万理一空

宮本武蔵五輪書の中にある「万理一空」とは、「万理」は非常に遠い距離のことで、「一空」は一つの空を指し、本来は「どこまでいっても世界は一つの空の下にある」という意味だったが、転じて、一つの目標に向かって努力していくことを奨励する時に使われている。

2009年1月、県立大学4年生だった臼杵万理実さんと知り合う。当時、彼女は自分が思うような作品制作が上手くできなくて悩んでいた。それは技術やセンスなどの能力の問題ではない。大学生になってから様々なアートに触れて、急速に見聞が広がっていったことで、自分の小ささに気が付いてしまい、これから美術をやり続ける自信を失っていた。いわゆる美術の世界の厳しさを知ったことで、何もかも虚しく感じて途方に暮れていたのだ。

そんな彼女ではあったのだが、ここでいろいろな人たちと出会い、いろんなことを語り合って、だんだんと自分らしさが磨かれていく。いくつもの偶然にもめぐまれて、個性は豊かに育まれていき、パフォーマンスは大きくなっていった。万理一空」ではないけど、美術の空の下でわき目も降らずに精進したことが実を結んだのだろう。そして、その懸命な後ろ姿で美術に夢見る若者たちを刺激し、やればできると創作意欲を高めてくれた。私のギャラリーで若い世代の作品展が多いのはひとえに彼女の功績があるからだ。この流れが途切れぬように、バトンをもらったら、あとは頑張るしかない!