後天的な才能

松陰先生が残した「一日一字を記さば、一年にして三百六十字を得、一夜一時を怠らば、百歳の間三万六千時を失う」という名言がある。
よく「美術家になれる人となれない人との差はなんでしょうか」と尋ねられる。こういう時は総じて「それは、ほんのちょっとした差。普通ならこれでいいと満足する時に、これでは足らないかもしれないと、もう少しだけ頑張っていける人。わずかなことにこだわれるからこそ、自分にしかないものを見つけ出せる。小さなことをこつこつできる人なら、それなりに年月はかかっても、いずれ美術家になれるはずだ」と答えている。
いわゆる天才と呼ばれる人だったら、日々に努力を積み重ねる必要はない。一瞬のひらめきで豊かな世界を表現できる。しかし、ほとんどの人は創作を続けているうちに、それぞれ似合う才能が磨かれてくる。独自性を発揮するために試行錯誤と創意工夫の繰り返し。つまり、美術の才能は先天的なものと思われるが、後天的な努力によって育むこともできる。いつも美術を意識し生きれば、なんとかなると信じて頑張ることが大切だ。