写真メモ

宮本常一の著書に「私はカメラをメモがわりに使っている。これは何だろうと思うもの、記憶しておきたいものなど何でも写しておく。いわゆる民族学的資料以外のものもとっておく。民俗的な資料や伝承は孤立して存在するものではなく、生活の一部として存在するものである。するとその生活全体が一通りわかることが大切である。また古いものが壊されて新しくなってゆく様も写真にしておく必要がある」という名言がある。


世にスマホが出現してから手軽に撮影する人が増えている。しかし、この多くは常一が唱える写真メモではなく、取り敢えず記念として写しただけ。常一は地域の人の話しを聞いた記憶を呼び起こすための資料に対し、一般の人が好む映えるような写真で、そのうち忘れていいものばかり。


つまり、常一は「忘れてはいけないというものをとった」と言ったように、見聞きした記憶を積み重ねることに限界がある。そこでカメラのレンズを通して、地域に注いだまなざしの記録を残す。いつでも記憶が取り出せるように、イメージを鮮明に定着させるために写していたのだろう。