世間師

今月のNHK Eテレの100分de名著は周防大島町出身の民俗学者 宮本常一の代表作「忘れられた日本人」。民俗学を人類史や文明史と言った大きな歴史からではなく、小さな集落の多様性や、個々の人生を機微を見つめる。地域に暮らした歴史に名を遺すことなく消えていった庶民の生活史に目を向けて、豊かに描いた魅力溢れる著書を読み解いた。

その第4回目は「世間史の思想」。かつての日本では「世間師」を呼ばれる人たちが集落に存在し「旅」を通じて新たな刺激や知恵を集落にもたらしてく仕組みが働いていたという。集落の外側にある価値、文化などを見て歩き、そうしたものを自らの集落に刺激として持ち帰るため、漸進的な発展の種は世間師によってもたらされてきたのだ。

私はこの放送を見て、今年2月まで山口情報芸術センターで行われた「Afternote 山口市 映画館の歴史」を思い出す。この企画展はアーティスト 志村信裕さんが約2年間に渡って、山口市内を歩き見て聞きして、地道な取材活動を繰り返して制作した映像作品。そして、協力した方々の思い出は宝物だと教えてくれた彼は正に「世間師」だと思った。