小宇宙

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子供の頃、学校から帰ったら家の近くの自然の中で、弟やその友だちと一緒になって遊んでいた。また、習い事としてバレエスクールにも通い、高校卒業するまでレッスンを長く受け続ける。ちなみにこのスクールの主宰者は泣く子も黙る厳しさで知られる名物先生。踊ることには一切の妥協を許さず、ミスを見つければ電光石火で叱咤激励し、「鍛錬」という言葉が似合う指導ぶりで有名だった。だから修行と言っていいものをやめず、最後まで耐え抜いたのは評価すべきこと。事実、彼女は世の中に出てから怖いものがなくなったと先生に感謝している。自由で伸び伸びも良いけど、不合理で理不尽な環境も、さじ加減さえ間違えなかったら、悪いものではないと言っていい。
そんな彼女は大学卒業後に都会の広告代理店で働く。一見は華やかな職業。しかし、実際は過酷な労働のため、ついに体調を崩して山口へ戻る。30代になって間もない頃の出来事。しばらくは療養生活を余儀なくされる。今もその後遺症に悩まされるほど大変なことになった。それからの時は過ぎて、少し体調が良くなった頃に、ふと子供の頃から大好きだった絵を描く。それはただ漠然とやり始めたこと。純粋に楽しもうと思い、絵を描きたかっただけ。すると身体の痛みを忘れて、生きていく希望が湧いてきた。自宅のお庭に咲く花の美しさに気が付き、通りすがりの野良猫の所作が楽しい。目に入るものすべてが面白くて、様々なものから生きる力を感じた。そう、よく見渡せば身の回りには素敵なものばかり。こうして彼女の美術活動は始まった。まだまだやるべきことは数々あるけど、50歳になって自分にしかできない世界観を、大切にするしていくことに意味を感じる。少し開き直って「これでいいのだ」と思えてきた。つまりそれは美術の本質が理解できるようになった証拠だろう。
■岸 透子 水彩画展 - VOICESl - 2019年5月31日(金)~6月16日(日) 11:00-19:00 定休 6月11日(火)、12日(水)