出会い

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2009年2月、ある若者と初めて会話することがあった。それまでは時折見受けては軽く挨拶する程度。何かを話し合ったことは一度もなく、いつも静かに作品を鑑賞していた。そんな若者から「(出展している)卒業制作展を観に来てください」と、いきなりお願いされたのだ。私はこのくらいのことなら臨機応変に対応できる。もちろん、この時も「それでは行きましょうか」と、速攻で返事して即行動していったのだが、それよりも4年生だったことに驚いてしまう。それくらい世間ずれしていなかった。よく言えば純粋で無垢。実際のところは弱虫で引っ込み思案だっただけ。自分で勝手にできないと決めつけていた。とにかく見た目と違い後ろ向きな発想で、マイナス思考のオーラが印象的だった。

そんな彼女には最初から厳しいことばかり言い続けた。それは私なりに考えて最善を尽くした言葉でもあった。しかし、当時の私は顔から火が出るくらい稚拙で、よくもまあ、知ったような顔で偉そうに語ったものだ。力任せに語った乱暴な言葉は、適切なアドバイスとは言えないもの。なんとかしてやりたい気持ちは空回りして、在り来たりの精神論から抜け出せず、堅苦しい言葉しか使えなかった。だけど、月日を積み重ねていくうちに、伝えたい言葉は具体的になっていく。創造力を刺激するものへ近づいていく。そう、真剣なキャッチボールはお互いを成長させていった。暗中模索、手探りでやっていたことがだんだんと実の結んできた。さらにこのやり取りが基礎になって、その後の若者たちとの交流に役立つ。すべての面に良い効果が波及して、次々に繋がりが広がっていく。つまり、それぞれの個性というものをみとめ合い、それをともどもに活かすことを学んだ。私は彼女との出会いで育てられたのだろう。素直に有難いと感謝している。

臼杵万理実 作品展 2020年4月10日(金)~26日(日) 11:00-18:00 火水定休