ルート

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その昔、公募美術展で高い評価を得ることができたら、世間に広く名が知られるようになって、第一線で活動できると考えられていた。いわゆるサクセスストーリー!実力を試そうとレベルの高いステージへ出展し、古い評価から脱出するために果敢に挑戦していた。当時、公募美術展は立身出世の象徴として美術家のみならず、一般の美術ファンまで固唾を呑んで注目していた。だからネットなどの通信手段がなくても、人と人との噂によってあっという間に知れ渡っていった。そう、著名な美術評論家が作品を称賛し、それをマスコミが取り上げて、そして、一流百貨店で大々的な作品展が企画されるという、スター誕生の方程式があったのだ。

あれから月日が流れて令和2年。大規模な美術公募展は数少なくなってきた。おそらく多様化し続ける美術表現を集めて、審査すること自体が難しくなったからだろう。また、自分自身のやっていることをSNSなどで発信して、作品についてのプレゼンテーションが可能になり、誰もが創作をアピールすることが手軽になった。このことを例えるのならメジャーからインディーズへステージは移行した。夏の甲子園大会で出場して大活躍するために厳しい環境を選ばなくても、ユーチューバーとして独自の野球観を主張すれば、応援してくれるファンが集まってくる。場合によってはメジャーになれるから馬鹿にすることはできない。

このたびの岸透子さんの作品展は、このようなことを意識して開催中。彼女のホームページには画像とメッセージを掲載して作品紹介するなど、これまでになかったことを行い、時代の変化にどう対応するのかを創意工夫している。この答えはすぐにはわからない。だけど、過去のやり方を引きずらず、思い切っていくことで、面白いことができるはずだと信じる。つまり「人生すべて実験である。実験の数は多ければ多いほどよい。失敗したら、もう一度起き上ればよい。転んだって何ともない」という格言のように、前を向いて進む気持ちが大切になるのだろう。