麦の如く

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かつて私が若かった頃、山口で20代の美術家が個展を行うためには、それなりの公募展で活躍した人や美大出身のバリバリの人、または、一定期間の修業を終えた人など、客観的に一人前としての条件を満たさなければ、やることのできない暗黙の了解があった。それは当時はまだまだこの世界が有力者たちのお墨付きを第一にし、その基準に従うことで美術作品の品質を保とうしていたからだ。言い換えれば、一般の人にまだまだ馴染んでいない美術文化を、安心安全に触れることを目的にしていたのだ。ただし、人のやることに完璧なことはない。何らかの副作用が発生することもある。しっかりとしたヒエラルキーは薬にも毒にもなってしまう。真面目な考え方は堅苦しいもので、若かった私にしてみれば、もどかしい因習だと思うこともあった。

あれから30数年経って、世の中は空気はとても柔らかくなってきた。なんでも老若男女を問わずにやっていい寛容な社会に変わっていった。それはそれで新しい問題が生まれている。だけど、やはり自由でオープンな方が面白い決まっている。特に20代の若者にとってはチャンスの多い時代。これまでの常識を破っていって、世に出られる可能性が大きくなった。オンラインで作品をアピールすることやビックデータを活用すること、さらにリモートでの取引の打ち合わせなど、とにかくネット社会を上手く使えば世に出られるだろう。

しかしながら1つだけ心配なことがある。それは下積み期間が短くなりやすいこと。効率よく身に付けたら早く多くのことがやれるようになるが、精神的なものも充実させていかないと、便利なものに溺れていつの間にか流されてしまう。自分のやりたいことではなく、お金になるのなら何でもよくなる。根っこを大事に育てていないと駄目になりやすいのだ。つまり、いつの時代も若者は麦のように踏まれて強く育つ。人生のレースは長いから何かで鍛えていくこと。諸行無常の中に生きるのだから自分らしくあるために個性を磨いていきましょう!