絵というものは不思議なもの

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その昔、「なぜ、美しい自然の夕日を絵に描いたりするのですか?」と、質問されたことがある。この答えには正解はない。人それぞれ自由でいい。ちなみに私は「その時に作者が美しいと感じたものを絵にしただけ。ググっと胸をときめかした夕日をモチーフに、もっとも大切な要素を自分なりのスタイルで表現して、実際にその場所にいるような臨場感を伝えようとしたのでしょう。具体的に目に見えるものを描くのなら写真にはかなわない。そうではなく、絵で表現するのは目では見えないもの。いわゆるエッセンスを自由に想像して楽しむこと。絵は単純でもあり、複雑でもあるのだと思います」と、答えました。

つまり、絵というものは不思議なもの。本当の姿をそのまま描くものもあれば、カラフルな色彩や大胆な線で抽象的に表現されたり、絵の表層には隠されたメッセージなど、ひと筋縄では読み取ることができない世界観がある。なんでもない普通にしか思えないものに、ちょっとした切り口で生命力をアップさせて、ドラマチックに感じるものに変えていくことができるのだ。本物だからこそ本物らしく伝わるものもあれば、非現実的なものを描いたのにリアルに感じられるものもある。独創性を求めた作者のこだわりというのか、限界を突き抜ける最後のひと押しが肝心になるのだ。

ただいまスピラート(防府市地域交流センター)で開催中の「りおたのスポーツ名場面集 2020」。イラストレーター りおた君が五輪選手をはじめ、プロスポーツで活躍するアスリートたちの、名勝負や感動的な場面を独特のタッチで描いた作品が展示されている。これを見た瞬間、あのシーンがよみがえってくる。知らないうちに遺伝子の奥深くまで刻まれた思い出が鮮明になる。リアリティーのある写真だったら、どうしても時が経ったことを意識する。イラストはあの時から、ずっと生き続けている。熱が冷めないまま、今も燃え続けている。だから絵というものは不思議なもの。消えてしまわない何かがある。人間ドラマが浮き彫りになるのだろう。