理屈じゃないもの

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「経験を積むと、理屈より勘を選択する勇気が出てくる」という名言がある。

たしかに、美術の世界でもキャリアの浅い人の方が、ああしたこうしたと理屈を言っては、自分の腕前をアピールしている。自分の作品はこういうコンセプトだと説明し、観る人に方向性を示して理解を求めるなど、どんな作品でもつけようと思えば、それなりの理屈がつくから言いたくなるのだろう。しかし、どこまでも理屈から抜け出せなかったら、生真面目で堅苦しい雰囲気になっていく。どこかで観たような表現になるため、新しい魅力に欠けてしまうのだ。

これが経験豊富な人になると、素直にインスピレーションを認めて、理屈を超えた何かで出来上がったと言う。これは果たして本当に美術なのかと、さまざま疑問が湧いてくるけれど、そもそも美術鑑賞とはこのような謎とつきあうこと。すぐに明快な答えを出す必要はない。そういった白黒ではないグレーゾーンで巧みに操り、その余白からいろんなことを想像させてくれる。ギリギリの紙一重で作品になればいい。理屈じゃなくて人の心を動かす感覚を大切にしているのだ。