月給取の午休み

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子供の頃、近くの商店街は平日でも人通りが多くて、いつも活気があって賑やかだった。その核と言うべき老舗百貨店は、おしゃれで華やかな雰囲気に溢れて、たまに連れて行ってもらうだけでワクワクしていた。そんな熱量の高いストリートは、高度経済成長期の象徴ともいえるもの。そこで働いている人はどこかカッコ良くて、いなせな大人たちに見えていた。
それに比べて、通学路のすぐそばにあった役所の大人は地味だった。おそらく、今よりもっと四角四面の時代。だから仕方がない。しかし、真面目な人の良さがわからないガキは、石橋を叩いても渡りそうもない職員さんたちを冷ややかな目で見ていた。本当に身の程知らずの大馬鹿ものだ。顔から火が出るくらい恥ずかしくなる。
昨日、中原中也記念館の企画展「中也、この一篇 正午」へ行く。「ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ。月給取りのひるやすみ」という詩の一節に触れて、あの頃の記憶が甦る。さすがにあれから約50年。包容力は違うはず。だけど、中也が月給取りに反発していたことを知って喜んでしまった。やっぱり三つ子の魂百までなのかも。そんなに成長していないことを自覚する。嗚呼、空吹く風に中也の言葉が、響き響きて反省した午後であった。