いのちの声

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中原中也の第一詩集 山羊の歌の最後を飾る「いのちの声」。詩人として生きていくことへの決意表明のような強い言葉が印象に残る。研究者によると『僕は何かを求めてゐる、絶えず何かを求めてゐる』『すると心は叫ぶのだ、あれでもない、これでもない、あれでもないこれでもない!』『されば要は、熱情の問題である。/汝、心の底より立腹せば/怒れよ!』と発し、魂を熱く燃やして創作と向き合っていたと言われた。
美術家も同じようなもの。芸術とは何のためにあるのかと問い続けながら、そこから浮かぶイメージを意欲的に創作していく。そして、日々の暮らしの中で、さまざまな現実と直面する人々に、創造して生まれた作品によって生命力へ刺激を与えるのだ。
つまり、中也のように全身から放たれてくる世界観で、鑑賞者たちの気持ちを鼓舞していったり、感情をむき出しにして喧嘩相手になるなど、その人の心を写し出す鏡になれるはず。なぜなら、創作する者はいつも頭に思い描くように表現できないもどかしさと戦って生きている。合理性や論理性では片づけられない感情と向き合い表現しようとする。創作家はそのような「いのちの声」を求めることが使命なのだ。目に見えたそのままではなく、真実よりもなお真実を感じる響きがあり、心の奥底へ伝わってくる「いのちの声」は、芸術の原点だと言えるものなのかもしれない。