富士山登山

f:id:gallerynakano:20210911235541j:plain


数年前、富士山登山ツアーの中にはバスで五合目(2305m)までを往復できるプランがあると聴いたことがある。たしかにこのツアーで山頂(3776m)へ行って雄大な景色を満喫できるかもしれないが、半分以上の場所から登頂した場合でも、富士山登山をしたと言っていいのかという疑問が沸いた。もちろん、旅行気分や観光目的に登るのならガイドもいるし、リスクも少なくて楽しめていいと思う。それなりにお金を払ったら、富士山のみどころを手軽に堪能できる。だけど、美味しい所取りの登山を登山だとすれば、なんでもかんでも登山になってしまう。極端に言ったら山頂付近までヘリコプターなどで行っても登山になるのだ。果たしてこれでいいのだろうか?

近頃、美術界でも同じようなことを目にする機会が増えてきた。美術の入り口(基本)からやろうとするのではなく、効率よくスタートしようと目論む人たちがいる。美術の場合、五合目からスタートするということは、これまでにあった作品を模倣したり、一部を寄せ集めて再構成した作品のこと。よくある表現から抜け切れぬまま、独創性に乏しく平凡さが目立つ、個性とはほど遠い作品になりやすい。だから、美術家を目指すのなら近道なんてものはない。どれだけ早く山に登るより、道草を楽しんで価値観を広げることが大切だ。創作は歩みをやめない限り、必ず成長していける世界。どこまでも成長することを信じて努力するものが才能を開花させるはずだ。