慈悲深い

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昨日から「HEART2021関連企画 県美界隈展 特別編」がスタート。本展は40代の創作活動に意欲的な3組の美術家夫妻による、エネルギッシュで個性的な作品を一堂に会して、作品を通じて切磋琢磨することを期待して企画した。このメンバーの共通点は県美展。夫婦どちらもかいずれかが出展している。なんだかんだ言っても県美展は虎の穴。展示スペースからくる作品規格の制限を排除し、現代美術の多様性を認識しながら、作家がその創造性を十分発揮できる場づくりをしている。何時の時代も若手作家にとって、魅力のある登竜門的性格になるように工夫されているため、腕試しには格好の公募展と言えるのだ。

そのなかひとり大村洋二朗さん。今年度の県美展で人物の顔が正面から捉えた写真を立体的な形にして、人種および民族的迫害や紛争地帯の過酷な現実を9点の作品「Hello Japan」で大賞を受賞する。「日本に住む我々の多くは、そのことを画面の向こうのニュースとして認識するだけだ。イメージの中の遠い出来事であることが、本作品ではデータのような形状で示されつつ、同時に、立体化されることで生々しさをもって見る人に迫る。政治的なテーマを、デジタル機器に囲まれた日常に繋げることに成功している(講評一部抜粋)」と審査員の鷲田めるろ氏に評価されていた。

先日、そんな大村さんと話していると、反骨の精神をむき出しにして、真っ向から社会問題と戦う表現した美術家 故・殿敷侃さんの顔が浮かんできた。とはいうものの、二人が似ているわけではない。まったく作風もアプローチも違うのだが、弱者が直面する不条理でやるせないものへ怒りや、手を差し伸べて助けたい気持ちはまったく一緒だ。本気で誰かを思いやっている。自分のことしか考えない美術家ではない。とことん困っている人たちに寄り添い、弱者の代弁者として世に訴える作品を制作していく。例え他人であっても自分の肉親や仲間だと思っている。だから、本物のやさしい気持ちなのだろう。