ワラビのセンでつくる

f:id:gallerynakano:20220416222112j:plain古くから山口で親しまれるお菓子と言えば外郎だ。その起源は室町時代に福田屋に始まり、やわらかくて上品な風合いのある味は、大内や毛利の歴史上の人物にも喜ばれ、今現在も昭和の初めに製法を引き継いだ御堀堂で伝統の味を守り続けている。

先週、中原中也記念館の学芸員さんとお会いした時のこと。生前の中也は上京する際のおみやげとして、福田屋の外郎を買っていたというエピソードから、初代中也記念館館長で、現名誉館長の福田百合子先生と中也の関係について語り合った。正直、どうでもいい妄想的な視点からの話し合い。ひと言でいえば、冗談でしかないけれど、面白い偶然に気が付いた。とてもユニークなものだ。

それは福田先生のご実家は、「福田屋の外郎は、ワラビのセンでつくる。ワラビは古代の植物で、原始の味がする」と言い、中也が絶賛していた外郎を作っていた。福田先生は学問の道へ進み、県立大学(当時、県立女子大)で教鞭を執られていたため、外郎づくりはされなかったけど、大学を退官されるやいなやすぐに中也記念館の館長に就任されたのだ。おお~~、これぞ偶然というよりも必然的に発生した運命の悪戯。神の見えざる手というのか、中也の見えざる手で、山口文化全体の幸福を実現する人事だったのだ。つまり、ワラビのセンは中也と福田先生を結ぶ線で、「ふるさとには、外郎のような原始の味がある」という中也の言葉は、未来を予言したものだったのかもしれない。なんて、くだらない空想に微笑みながら、楽しいひと時を過ごした。