超絶技巧に憧れて

9年前、「滅多にお酒は飲まなくなった。そんなに好きじゃなかったし、やっぱり目には全然よくないし。おかげで疲れずにペースもよくなって、いい感じに仕上がっていくよ。俺にしかできない絵を1枚でも多く描きたい。誰も観たことがないものを描きたいんだ」と、持論を語っていた画家がいた。ある時は「この世で誰も描いたことがないものを選んだ」と言い、どこにでもあるような新聞紙をモチーフにして、それを描いていった。「新聞紙というものはそのうちになくなるんじゃないかな。インターネットの画面で読めるから、紙に印刷しなくてもよくなっていく。だから未来人は、俺の新聞を描いた作品を観て、新聞の存在を知るかもしれない。本気でそう思っているんだ」とも語ってくださった。

もちろん、これだけのことを公言するのだから、それに見合うだけのことはしていた。毎日、アトリエで朝8時から夜の10時まで、食事やお散歩などの休憩時間を除いて、ひたすら引きこもって作品制作と向かい合う。ストイックなんて言葉で形容できないほど、ものすごい気迫に満ちたものがあった。新聞をアートとしての可能性に挑戦したのは気まぐれなんかじゃない。「しつこさこそが俺の武器なんだぜ!」と常に言うくらい、前人未到の個性的な表現にこだわり続け、オンリーワンになることを期待して創作していった。

そんな芸術道一直線の画家と生前最後の会話で、「俺の後輩(山口芸術短期大学)も可愛がってくれよ」と真剣な目で言われたので、「もちろんです!」と答えてしまった。なんだか、昨日のように生々しく思い出せるけど、実際にはあれから時は過ぎ去って年月が経っている。このたび、天へ旅立った直後に知り合った教え子の個展が無事にお開きになりました。私になりに彼女に最善を尽くし、思いっきりバックアップしました。その結果はまずまずという感じではないでしょうか。この作品を企画したことで、多くの芸単ファミリーが集い、多くの山口で創作に夢見る人たちに、その熱量で刺激をもたらしました。どうかこれからも私たちを見守ってください。吉村さんのように頑張っていきます!合掌