驚く

松陰先生のお言葉に「学問ばかりやっているのは、腐れ儒者であり、もしくは専門馬鹿、または役立たずの物知りに過ぎず、おのれを天下に役立てようとする者は、よろしく風の荒い世間に出て、なまの現実を見なければならない」がある。
美術家も同じようなもの。作品制作ばかりやっているようではいけない。自らの創造力を刺激する出会いを求めていく。できるだけよくわからない作品に触れてみた方が良い。いい緊張感を味わえる場所へ出向いてみるのだ。どう観ればいいのかわからないものだったら、あらゆる感性を働かす必要があるから、結果的に自身の作品制作に好影響が生まれてくる。作品と向き合ってあれこれするうちに、自分なりの見識が養わて、創作活動を豊かなものにするだろう。
昨日の午後、彫刻家 田中米吉先生が生前使われていたアトリエへ、初訪問の若者たちとともに総勢11名で参上する。もちろん、長年に渡って助手だったヌマさんにご案内していただいた。やはり、芸術性の高い作品と出会い、驚くという心に衝撃を浴びることこそ、創作する人にとって創造の源泉だと言っていい。美術鑑賞して驚くということは、その本質に気付いたことへの喜びである。
若者たちは米吉先生の独創的な作品の個性の強さに驚き、それをずっとブレずにやり続けたことに驚き、そして、今も新しいまま生命力に満ちているに驚いていた。ちなみにこの場合の驚くとは感動していること。米吉先生の魂とつながった瞬間に、全身に電気が走ったような痛みで、潜在能力を呼び起こす刺激のことだ。約3時間、じっくりと鑑賞した後に、皆々の表情を見てみれば、滝に打たれたように清々しくなっていた。さすが芸術は永遠だ。米吉先生、今日も稽古をありがとうございました。