着眼点

今月中旬、首都圏にいる友人からメッセージが届いた。その内容は、NHKラジオ番組 高橋源一郎飛ぶ教室に、この春に東京藝術大学長になった現代美術家日比野克彦氏が出演したとのこと。そして、「藝大に入学するために予備校に行くのは矛盾してないか等、美術に関する興味深い話をしてました。ぜひ聴き逃し配信で聴いてみてください」と書かれてあった。

そこで早速聴いてみると、1980年代前半に日比野氏が当時あったデザイン界の三大タイトルを総なめして華々しくデビューしたことに始まり、また、さまざまな分野でも新しいタイプの人材が次々台頭して、目まぐるしく変わった社会について語り合っていた。その後、藝大へ入るために、なぜ美術予備校へ行かねばならないのかという話題で盛り上がり、試験の課題をクリアするために技術習得するという、他の受験にない特殊性が浮き彫りになった。

そのようなやり取りの中で、日比野氏が次のように語った。「オーストラリアの辺境地域にアボリジニの洞窟壁画がある。これは約1万5千年前に描かれたもので、文字は約4千年前に誕生したから、人間が何かを見た時に生まれた感動を伝えるために、ひたすら洞窟の壁に描いていったのだ。つまり、描かなくてはいられない衝動の痕跡とも言える。美術予備校は藝大に入学して本当に作品制作をしたいのかどうかを試す場所。デッサンは簡単に上手くならないから、そこで辛抱強く勉強して、厳しくトレーニングするしかないため、本気で芸術がやりたい人以外はやめてしまうだろう」という感じでまとめていた。