情けは人のためならず

1985年11月、ギャラリーシマダが核となって、山口大学で現代美術のシンポジウムが行われた。私は3つ年下で高校生の友人を誘って参加する。ちなみに彼は早熟野郎。美術にも文学にも造詣が深く、この日もいろんなことを教えてもらう。とにかく、私は基礎知識が足らな過ぎてついていけず、地蔵のように固まっていたが、彼はまったく怯むことなく、熱心に討論を聴き入って、最後に手を挙げて鋭い質問と持論を語り、パネラーの美術家をはじめ、会場の参加者たちを大いに驚かせた。

その後、レセプションにも友人と出席。すると、パネラーのひとりから声をかけられる。もちろん、友人に興味があってのこと。しかし、友人は見た目よりシャイで、なかなか嚙み合わなかった。そこで、私が代理で話していると、この翌日に東京行の同じ飛行機に搭乗することが判明。私の車で空港まで行ってそのまま飛行機に乗り、マンツーマンでレクチャーを受けながら、一路東京へと向かうことになった。

なんてラッキー!短い時間だったけど、画廊巡りの周り方から現代美術の観るポイントまで、受験直前対策必勝法くらい効率よく学ぶことができる有意義な時間になった。そして、お勤め先の美術館で美術展の招待券をいただいた後、すぐに実践というのか、都心をメモ用紙に書かれた美術の地図を頼りに動き回る。そうしたら訪れた画廊の方に気に入られて、作品取引するチャンスにもめぐまれた。たった4日間でここまでの人材に出会えるなんて、映画やテレビドラマでも無理な設定だろう。これも友人を誘ったことに始まる。その小さな親切がめぐりめぐって自分にやって来る。人生の基本は、情けは人のためならずなのかもしれない。