伸びしろ

香月泰男画伯の名言に「私は毎年のことだが、今年も庭の椿を描いている。ただ椿の花の咲いているのが眺められる、しあわせのしるしとして描いている」がある。
 
冬場の冷え込みが厳しい山陰地方。その寒さを乗り越えて、春を訪れを感じるのは、あちらこちらで草木が芽生え、命の息吹に触れた瞬間であろう。それも自宅周辺に芽吹いた柳花や土筆、わらびなど、ふと身近な草花に目を向けては、生きる悦びを描いていった。ふるさとを今宵なく愛し、目に映るものすべてが美しく、春はモチーフ天国としていた画伯らしい言葉である。
ところで、画家の佐々木範子さんは、実姉とよく香月泰男美術館へ訪れている。もちろんそれは憧れの画家の作品群に触れることで、美的感覚や創造力を養うとともに、いつまでも初心を忘れずに戒めている。佐々木さんは佐々木さんらしく、身近にあるものをモチーフにして、やわらかい表現で美しく描いている。小さな自然の変化を発見しては、独自の色合いで表現していく。作品が活き活きとして見えるのは、まだまだ伸びしろがあるから。これからさらに成長できるから眩い輝きがあるのだろう。