創造の旅

20年前、「先端芸術表現」と呼ばれる文化が足音を立てて山口市にやって来た。いわゆる従来の絵画や彫刻、デザインなどの既存の美術ジャンルから抜け出し、時代とともに変化していく社会や科学技術の中で、新しい形や概念による造形表現のことで、主にパーソナル・コンピュータを活用したメディア・アートの基地が出現したのだった。

当時、一般家庭でのパソコン普及率はまだまだ低くて、もちろんスマホタブレットも存在しなかったから、どんなアートなのか標準的なイメージがよくわからなくて、戦々恐々しながら行く末を案じる人たちが多くいた。いくら美術は世間一般の価値観とは異なるにしても、これまであったものが否定されたら困るというようなムードが巻き起こった。

だけど、これはまったく老婆心。結局のところ、次々に手軽で便利なデジタル機器の登場によって、私たちの生活が様変わりしていくことの受け皿だった。これまでになかった感覚や刺激をもとに新しい分野の美術を鑑賞できる空間だと言うべきもので、市民のインフラが整って身近になった今は、創造の旅を楽しむための水先案内人なのかもしれない。