さくらさくらさく さくらちるさくら

「さくらさくらさくさくらちるさくら」とは漂泊の俳人 種田山頭火の句。これは要するに「桜、桜、咲く桜、散る桜」と漢字を使って表記すれば、言いたいことはハッキリとしてくる。そこをあえてすべて平仮名にすることで、暗号のような不思議な感覚を醸し出す。それと「桜」より「さくら」の方が春のやさしい温もりをじんわり感じさせる。

おそらく山頭火は桜の花が咲いたことに喜ぶ人たちの姿を見ながら、咲くにしろ、散るにしろ、みんなの心を揺さぶる愛しさと切なさがあることを称えたのだろう。それとも咲いては散る桜の運命で、かと言って花が咲いていない季節にも、桜は生きているからこそ、太い根っこや支えとなる大きな幹、伸びる枝たちに心を寄せたのかもしれない。

いずれにしても、意図がよくわからないから実に面白い。この句を詠んで感じたことを、なんとでも解釈できる抽象性が素晴らしい。まっさらな心で、思い込みや先入観に縛られずに、常に見方を変えて楽しめばいい。つまり、今ここに精一杯咲く桜の花のように、一期一会の豊かな文化を大切にして、今この瞬間の出会いを堪能していこう。