大いなる妄想

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昨日の夕方、ひさしぶりに御年80歳の隣県に住む美術評論家が、県立美術館の「岸田劉生展」を鑑賞後にお越しになった。ようこそようこそ、ありがとうございます!そんなご挨拶もそこそこに、堰を切ったように岸田劉生の持論を展開し始める。「劉生は洋画家として初めて作品が重要無形文化財になった人。そのため研究者たちは失礼がないように、忖度したような評論に偏ってしまいやすい。たしかに実際には欧州へ行ったことがなく、仲間の所有する印刷技術の悪い画集を参考にして、そこからあれだけの作品を描き切れたセンスは抜群なもの。本物の欧州絵画を見たことがないのに、小さな破片をヒントにして、残りのすべて想像して描く。だから天才であることは間違いないだろう。だけど、もっと人間味のある面をついてフランクに語るべきだ。どこかきれいな物語にしようしている。そこがいつも物足らないと感じている」と、劉生の作品への思いを熱くおっしゃられた。

やっぱり、さすがにプロの言葉だ。この他にあまりにも独断と偏見から生まれた脱線トークもあったけど、それらは決して否定できないほど味わいがあって、むしろ人の生々しい感覚が伝わってくるものばかりだった。作品の奥深くに存在する見えないものを見事に採掘している。何ごともその時の気分次第で、どのようにも感じれるもの。かじった程度で面白くないと感じたら、そこからは駄目な部分が気になって、最終的には無駄だからやめようなってしまう。そうではじっくりと時間をかけて見つめると、どこか楽しめるポイントがあって、意外となんでも面白くなってくるのだ。できるだけ効率よくの真反対、できるだけ時間をかけて付きあったら、たくさんの良さが目に入って興味が湧いてくる。つまり感受性とはスロースタート。いきなりアクセル全開になることはない。美術鑑賞の極意を教えていただいた。素晴らしい講義に心より感謝しています。

■吉祥展&アートカレンダー展 2019年12月7日(土)~25日(水) 11:00-18:00