弱虫でもできること

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それまで自分なりに描いてきた作品を観れば、その人はどんな個性なのかがわかるもの。およそ考えていることや進みたい方向性をだいたい知ることができる。11年前、私はこのポリシーに従って知り合ったばかりの彼女に、「なんでもいいから見せてください」と、リクエストしたことがある。すると、なんと小学生になったかどうかのものから、学生時代に制作したものまで、全歴史に近いスケッチブックやノートなどを10数冊持参してくる。それを黙々と机の上に並べる姿に唖然させられた。幼少期からの作品をずっと大切に保管しているのは素晴らしい。大人しそうな顔つきに似合わず、俗世の甘い誘惑に負けない精神力。その青雲の志に美術への覚悟を感じ、私のハートはスマッシュされた。

その当時、彼女は「弱虫でもできること」と名付けられた作品シリーズ。画面に描かれた少女の表情はどれも泣きそうな顔ばかり。それは寂しくてや悲しくて、苦しくてそうなった訳ではない。自分らしく思い通りに作品を描けない。とにかく歯がゆくて情けない気持ちが抑えきれない。どうしもなく悔しくて、ただただ涙をこぼすしかなかった。美術に対して一直線だから生まれるジレンマ。要領は悪くて馬鹿正直に取り組むしかない、彼女の純粋さから生まれたのだろう。

近年、古くから観ている人に「泣かなくなったね」と、作品の感想を言われたことがある。たしかに無我夢中に走り抜けていくうちに、たくさんの経験からたくましくさが身に付いた。まだまだやるべき課題は限りなく多くある。だけど、無意味なコンプレックスはなくなってしまった。いつも創作することで魂は磨かれて、自分らしさを持てるようになったのだ。そして、「笑っている人より素のような表情に、その人らしい感情があって、等身大の人物像を感じている」と、彼女の緩い言葉を簡単に要約したら、こんな思いを語れるほど立派になった。全ての道はローマに通ず!これからもそのまま難を求めて、有り難うの人生にしていきましょう!