少年の輝き

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私が50歳の頃、当ギャラリーで有望な美術家の個展を行った際に、誰もが尊敬している芸術家の先生がお成りになった。ありがとうございます。すると、展示している作品を目の前にするやいなや、急に不機嫌になって、ものすごい形相で作品を食い入るように観てくださった。そして、「君の作品はまだまだ。俺はこのくらいことで驚かんぞ。世の中には、もっとインパクトのあるものがいっぱいあるんだ。だから、(作品は)認めんぞ!」と、いきなりアクセル全開の本気トークで評価していただいた。

これって、めちゃくちゃ褒めてくださっているよね。私は心の中でそう思った。なぜなら、叱咤激励の言葉だけではなく、これだけ嫉妬している先生の姿は初めて見たからだ。そう、ここにある作品に恐怖を感じるほどの斬新さがあったため、心のブレーキが壊れて、思いっきり感情をむき出しにしまったのだ。私はその姿に展示していた美術家の素晴らしさに手応えを感じ、また、先生のその少年のような純粋な芸術魂に感動せざるはいられなかった。負けてはなるものかという大人気ない行動は理屈以上に清々しい。人間の理性を超えて伝えるための野性味が十分にあった。

その後、美術家はあちらこちらで作品を発表をして大活躍。ついには都会の美術館に作品は所蔵され、母校の美大で准教授に抜擢されるまでになった。先生のエールが効いたのかなあ?(笑)きっと、そうですよね。「人間は一生のうちに逢うべき人には必ず逢える。しかも、一瞬早すぎず、一瞬遅すぎない時に」という名言のように、美術家の運命は上手くできているのだろう。