不屈の精神

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今週の月曜日にテレ朝系で放映された「M-1グランプリ2021 アナザーストーリー」。決勝大会に進出した全9組に密着取材して作られたドキュメント。どうやったら頂点に立てるのかという問いに、あらゆる手段を講じて笑わせようとする漫才師の苦悩と努力を浮き彫りにしていく。さすが番組を制作したのは朝日放送夏の高校野球大会のダイジェスト「熱闘甲子園」を制作するだけのことがある。いつもながら絶妙なカメラワークと心に響くナレーションで視聴者のハートをスマッシュしていくのだった。

それはさておき、私はこの番組で一番印象に残ったのは、最終投票でM-1王者が錦鯉に決まった瞬間。最年長ファイナリストに続いて、最年長チャンピオンになった錦鯉を見て、まるで自分が優勝した時のように喜ぶ若手芸人たちの姿は、フェアプレー精神に満ちていて、身体の芯まであたたかくなった。みんな勝ちたいのが本音だけど、ずっとマイナーで低迷したいたのにもめげず、親子ほど年齢の離れた若手に体当たりして、勝とうする闘争心に敬意を表して手放しで称賛していた。

こういうシーンを見ていると、ふと9年前の大相撲名古屋場所で、史上最年長初優勝を果たした旭天鵬関のこと思い出す。千秋楽の優勝決定戦後に、土俵を下りる前からこみ上げる涙を押さえきれずに流していた。そして、花道の奥で待っていた付き人たちの無垢な泣き顔に、会場は大歓声と拍手が鳴りやまなかった。人が人を無条件に称えることのできる素晴らしい瞬間。まったく同じように思う。それからもうひとりいた。彫刻家の田中米吉先生が絶讃される理由も一緒だ。美術大学出身者ではなく、40歳から本格的に創作に取り組み、ようやく芽が出始めた時に目を患い、失明の危機を乗り越えて、ついに60歳にして大きな華を咲かせて、芸術家と呼ばれるにふさわしい地位を築いた。そうした長い道のりにも負けなかった純粋な思い。そういう長い下積みの歴史があるか