はみ出し人生

「日本の文学は空想力が貧弱だ。相当の長篇を読んでも筋立てにコクがなく、菜食主義者が一念こめているような奮闘のオモカゲは察しられても、影の薄さがみなぎっている。良く云えば『マチガイをしないように』『バカと云われないように』手堅くつつましく良識の線内に踏みとどまっているような様子であるが、悪く云えば、空想力が欠けているのだろう。才能的に菜食主義者なのかも知れない」というのは、坂口安吾の言葉である。

私も安吾と同じようなことを考えている。美術家とは既成の価値観や常識で計れない、究極の0点を目指さなくてはならない。どんなに何かの基準の中で善戦して上手くやっても、本家というのか、オリジナリティが持つ本物の輝きには勝てないからだ。例え100点満点をゲットしたところで、二番煎じ、三番煎じと呼ばれてしまうだけ。ただし、模倣を繰り返していくうちに、余計なものが削ぎ落されて独創的になる。さまざまな体験を得て、自分しかできないものに気付けるのだ。

つまり、これまでにない世界観にこだわっていけば、なかなか一般の人には馴染まないため、簡単に評価してもらえず、ひたすら耐えることになるだろう。そんな時は世間体を気にして利口ぶらないで、どこまでも愚直に自分らしさを追究し、個性的になるまで努力していくこと。究極の0点を目指して枠の外に思いっきりはみ出すのだ。「インスピレーションは、多く模倣の精神から出発して、発見によって結実する」という安吾の言葉のように、下手と言われることを恐れずに創作していこう。