スター誕生!

子どもの頃、それまでの時代になかった音楽タレントを発掘するオーディションとして、「スター誕生!」というテレビ番組が始まった。この番組は歌自慢の素人が全国より応募して参加。予選会で音楽専門家の厳しい審査で選び出されてから、決勝大会では芸能プロダクションに目に留まった者がスカウトされて、歌手デビューへの道が切り拓かれていくという、夢のあるコンセプトに若者たちは引き込まれる。

ちなみに、番組制作に関わった阿久悠氏の著書によると、放送された12年間に応募者は約200万人。そのうち合格して実際にプロになれたのは91人。言葉を絶するほどの確率である。それでも夢中にさせたのは、今と違って一般社会と芸能界は一線を画していて、越すに越されぬ大井川を越えられる唯一のチャンスに心奪われてしまったのだろう。どこか手の届きそうな華やかな世界。けれども手が届かない現実ばかり。とにかく、大きな壁にある小さな窓は眩しくて、常軌を逸した若者を次々に製造していた。

イラストレーターのりおた君。リアルタイムで「スター誕生!」が放映された頃は生まれていない。だけど、阿久悠氏が語った「上手いとか、心を打つとかの他に、光るという要素が重要であることがわかり、時に、それは、上手いという技術をしのぐことがあるとさえ思った」という言葉は、彼のイラストの魅力そのもの。なぜなら、自分が感動したものをひたむきに描く懸命さは、光るという、いくつかの偶然が重なり合うことで生まれる抽象的な条件を満たし、エネルギッシュなパフォーマンスで独自の世界を描いている。だから、今、「スター誕生!」という言葉が似合うステージに立っている。もっとビックになってくれ!楽しみにしている。