個性

『私は今、地方で生活しているけど、地方とはそこにしかない、その地方の風土があり、それを個性として生かしてこそ成功できると思っている。集団を都会とすれば、ひとりという地方のほうが個性を発見しやすいし、個性こそ都会(集団)、世界に通用することにならないでしょう。地方が個性的であることと、ひとりの人間が世界にひとつしかない個性を発揮することと同じこと。
芸術とは、その人の個性である。個性とは人と違うこと。世界にひとつしかないこと。私が自分の個性を掴もうとした時にやるべきこと。それは今までに誰も描いたことがないものを描いてやろうと意欲と、その作品が自分だけのものにする情熱だ。そして、私が個性に目覚めたある日、新聞をそっくりそのまま全部エンピツで描き写した”ドローイング新聞”が生まれて、この作品が私の原点だと言えるものになったのだ。つまり、個性とは、世界にたったひとつしかない自分だと思う』(1985年1月発行 山口県立美術館ニュース第22号「見ることの 描くことの信憑性 それは自己存在のリアリティ 自己存在の信憑性を勝ち取るのです」より抜粋 文 吉村芳生
以前にも取り上げた文章。このたび、ご子息の吉村大星君が県美展大賞受賞したため、あらためて拝読してみると、最初から技術的にリアルに描こうとしていたわけではない。自らの個性的なものにこだわったからこそ、超絶技巧の世界に突き進んだのだろう。要するに自分らしさは追究してみれば、升目に機械的に濃淡を描くことのできる忍耐力と、その単調な作業を楽しめるセンスがあるので、それは活かせば面白くなるはず。そう信じて削柵活動をすれば個性的になれるのだ。個性を重んじることを第一にしたことは、大星君にも受け継がれている。