マモリガミ

瀬戸内海や身近な動物たちを遊び心ある画風で飄々と描いていた画家 松田正平(故人)。座右の銘として好んで使っていた言葉に「犬馬難鬼魅易(ケンバムツカシ キミヤスシ)」がある。これは犬や馬のようにありふれたものを描くのは難しいが、 鬼魅(ばけもの)のように実体のないものを描くことは易しいという意味だ。

身近にあるものをモチーフにすれば、観る人はよく知っているだけに、そう簡単には面白がってくれない。わざわざ絵にする必要はないって言われそう。そうではなく、実在しないものをモチーフにすれば、誰ひとりとして見たことがないから、どういう風にやっても表現の自由で、観る人は寛容に受け入れやすい。つまり、観る人をありふれたもので惹きつけることは、玄人でもやすやすとできないことなのだ。

昨日、このたびのグループ展で吉田朱里さんの出品作「マモリガミ」を観た時に驚かされた。思いっきり空想の世界なのに、どこかにいそうなリアリティさがある。なんだか臭ってきそうな空気を醸し出してくる。ちなみにこの作品は、大昔に米などの穀物を荒らすネズミたちを、ネコが追っ払って人々を救った実話をもとに創作したとのこと。嗚呼、なんて奇想天外な発想だ!渾身の作品と言うべき独創性がある。彼女の空想力に目を細めるばかりだった。