ときめき

20数年前、画家の佐々木範子さんが第一子が出産してから、しばらく経った頃に、お子さんがベットで寝ている間に、そのそばで1枚の絵を描き始めた。それは美術展に応募するためではなく、誰かに観てもらおうとして描いたわけではない。ただ本能的に描きたかっただけ。上手くやって褒められたいなどの野心なんてない。ほんの一瞬の細切れの時間に、自分の楽しみとして絵筆をとった。

つまり、毎日毎日見ても見飽きることのない子どもの寝顔を、子どもが寝ている自由な時間に、自分なりに表現したいという衝動にかられて制作する。作品で自己主張するつもりはなく、極めて私的な理由で創られた作品。自分が感動したことに我を忘れて、没頭できる時がもっとも楽しい。

この作品は先日の佐々木さんの個展で、こっそりと奥のスペースの壁面に飾ってみた。すると、やっぱり近作の方がいいと思った。なぜなら、あるがままを見て出来上がった美しさであって、今のように伝えたいことを美しく表現したものではない。意図して美しく表現しようと創作されたものの方が素晴らしいに決まっている。