互恵関係

そう言えば私の若かった頃の美術界には、素人や未熟な人は専門家の前で黙ってなさいという暗黙の了解があった。なぜなら、その時代の専門家は圧倒的な知識量と情報量を保持しているため、雲の上の存在として尊敬されていたからだ。故に、専門家が専用語で語る講演会などは、それだけで価値あるものとされていた。いわゆる寄らば大樹の陰ではないけど、立派な専門家のトークを聴講すれば、それだけで賢くなれるように信仰のようなものがあったように思う。

あれから時はずいぶん過ぎて、美術情報はネットにあるビックデータを活用すれば、専門家だけではなく、誰もが手軽に選び取り扱うことができるようになった。自分の興味あるものを拾い集めて、そこから分析することで専門性を高めて、自分なりに練り上げた仮説を楽しんだらいい。そうすれば、専門家も気づいていないようなことが発見できるかもしれない。ただし、いいとこ取りをして自惚れてはいけない。多くの専門家は0から1に挑戦している。つまり、専門家と多くの人たちが力を合わせて美術談義をすること。いろんな視点から語り合うことで美術はどんどん面白くなっていくはずだ。