セルフマインド

昭和時代の終わり、初対面の美術家同士が自己紹介する時、お互いの能力を公募展での入賞入選歴や著名な評論家による評価などで比較していた。自分が上で相手が下だと思ったり、その逆でやられたと思ったりする。この場合、たとえ優越感を得ても劣等感を得ても、実は同じ劣等感情の裏返しであって、どちらもコンプレックスの表れだから、まだまだ自分の創作に自信が持てないレベルだと言えよう。

それ故、自分と他人を比較して、あーだこーだ虚勢を張っているようでは大したことはない。創作する人にとって一番必要なのは、誰かのお墨付きをもらって、自信を持つことではない。自分の人生で美術がどれだけ価値のあることにできるのか。その瞬間に持てる限りの力を出し切って、自分で納得するまでやりたくなる魅力が持てるのかだ。

つまり、自分自身の能力をぎりぎりまで使って、できるかどうかの目標を持つことが大切になる。挫折必至の難し過ぎる目標は傷を負うだけだし、現状でできる範囲だったら手応えは得られない。手の届くわずかな進歩を目指せば、わずかだけど着実に身に付く。何を想像し、創り出し、信じるかにこだわって独自性の価値観で創作すればいい。