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40数年間、母がギャラリーを始めたおかげで、私は早くから美術に関わる人たちとの交流が始まった。当時、今と違って四角四面で融通が利かないことが多い時代。いわゆる真面目で潔癖さが蔓延していて、どこか息苦しい張りつめた空気が漂っていた。しかし、このような状況であっても、美術を愛する彼らは、常識に縛られることはなかった。いわゆる堅気の人たちと一線を引く本物の自由人なのだ。あまりお金は持っていなかったけど、美術に限らず映画や小説、演劇などの様々なことに精通し、思い思いに楽しそうに語り合っていた。
そう言えばネットのない時代でもあった。情報は人を介さなければ得られることはできない。良くも悪くも人と人とが直で触れ合うしかなかったのだ。ただし、知らないことを知るにはとても便利で良かった。およそ文化からはみ出すことを言う人はほとんどいなかった。なぜなら人前でそれなりに語るには最低限の勉強してくるもの。このような暗黙のルールがあったため、涼しげな顔で話しても、陰でしっかりと努力していたのだ。
そんな彼らが真顔で語り合うこともあった。それは香月泰男画伯の作品についてだ。あの頃、お名前をうかつに呼び捨てにしたら、怒涛の如く大説教大会が始まるほど崇拝されていた。みんながみんなそうじゃなかったが、少なくとも山口県で美術活動をするものにとっては、「レジェンド」という言葉のさらに上にいくほど尊敬されていた。絶対的な存在。避けて通ることはできなかった。もしかしたら美術家になるための登竜門のような存在だったのかもしれない。先日、展覧会で作品を鑑賞した時に、ふとこのことを思い出した。時を越えて生き続ける画伯の作品は、いつの時代も新しい発見があって、画家とは何ぞやとの問いを感じる。スーパースターの作品は輝きを失わない。ぜひこの機会に刺激を味わって想像力を燃やしましょう!