酔っ払い

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「若者は自分には十分な分別があると思っているが、それは酔っぱらいが自分は酔っていないと思うのと同じである」という名言がある。

そう言われてみれば、私は20代の時の方が今よりも遙かに美術について自信を持っていた。なぜかというと 、あちこちの美術館へ出かけたり、手当たり次第に美術書を読んだり、美術家に会いに行ったりするなど、美術中心の生活をしていたからだ。しかし、それはただ美術のことを知っているだけに過ぎなかった。自分らしく視点で観ることや感想を語ることなんてオシャレなことはできない。もっともらしいことを言ったとしても、それはどこかで覚えた他人の言葉。美術談義が長くなってくれば、すぐにボロが出て実力がばれてしまった。本当に思い出せば、顔から火がでることばかり。馬鹿みたいに自分に酔って、二日酔いの連続だった。

つまり、美術という雄大な世界の中を生きるのなら、それ相応の年月が必要になってくるのだ。いわゆるローマは一日にして成らずということわざのように、長年にわたって様々な美術と触れ合っていくうちに、自分らしい言葉で自由に話せるようになれる。もちろん、いくつになっても美術への冒険心や情熱を失わずに、新しい感動を積極的に求めていく気持ちがなかったら、中途な感性のまま成熟することはないだろう。美術とは、知れば知るほど知らないことをよく知る世界。どこまでも先入観のない心で素直に触れて楽しみましょう!