古きを知り新しきを知る

徒然草に「よろづの道の人、たとひ不堪(ふかん)なりといへども、堪能の非家(ひか)の人にならぶ時、必ず勝ることは、たゆみなく慎みて軽々しくせぬと、ひとへに自由なるとの等しからぬなり」という一節がある。
これは「どの道でも専門家というものは、たとえ未熟であっても、熟練の素人に比べた時に必ず勝っている。それは、いつも油断なく慎重で軽率なことをしないのと、ただただ勝手気ままにするのとは違うから」という意味だ。つまり、上手なアマより下手なプロの方がましで、器用に見えても勝手気ままな素人は、無責任なやり方でいずれ失敗するとしている。
ちなみに私が20歳の頃、美術界はプロとアマの境界線がハッキリとしていた。その基準は公募展で入賞入選したり、所属美術団体でお墨をもらうなど、客観的な評価が必要条件だった。とても合理性があるようで、結局のところ、人が人を選ぶことは絶対的ではなく、審査員の好き好きや縁故採用、はたまた嫌い人を弾き出すなど、不透明な審査も存在していた。
そんな流れを変えたのはバブル景気。美術品の売買が盛んになったことで、美術市場の作品数が不足したため、プロとアマの基準が大幅に緩和されていった。その後、バブル崩壊はしたものの、今度は国際化したため、日本的権威主義は影が薄くなるばかり。さらに現代はSNSも加わって、どんどん基準が曖昧になっていく。おかげで収拾がつかない面もあるけど、「油断なく慎重で軽率なことをしない」を守る人は、いつも変化し続けるから斬新さを失うことはない。やはり、人の本質は約700年前から大きく変わっていない。古きを知り新しきを知るのだろう。