冒険

写真家 石川直樹さんのエッセイ集『全ての装備を知恵に置き換えること』(2005年9月発刊)の中に、私のハートをバーンとスマッシュする一節があった。
世界に地理的な空白がなくなった現在、私たちはこれからどこへ向かおうとしているのか。現代における冒険とはいったい何なのだろう。冒険なんてどこにでもあるものさ。そんなものは自分で生み出せばいいんだ。複雑なものから、よりシンプル、より純粋なものへと追求していく過程というのは全て冒険なんだよ」。
たしかに世界中のあらゆる地域と行き来ができる交通網が整備され、また、どんどんネット社会によって交流の輪が広がって、秘境と認定できるような場所はほとんど残っていない。どうしたら冒険と呼ばれることができるのだろうか?
川部那萌さんの作品を観ていると、そんな疑問は愚問であることが学ばされる。それはつまりこのような感じ。「身の回りの景色は宝物。日常をよくよく見れば、美しさや不思議さ、面白さがたくさんあって、立ち止まって深く味わえば、冒険と同じくらい、心をわくわくさせるものばかりですよ」。さすがに子供の頃から自然と戯れて育ったことで、小宇宙を発見するセンスに長けている。遠くへ行かなくても、良きものは近くあって、素直に楽しめばいいことを教えてくれるのだ。