酔いしれる

中原中也の未完成の詩に「酒は誰でも酔わす。だが、どんなすぐれた詩も字の読めない人は酔わさない。だからといつて、酒が詩の上だなんて考える奴は『生活第一、芸術第二』なんて言つてろい」という一節がある。
中也はお酒を呑んで酔っ払うと暴れて、誰にでも喧嘩を売るようなところがあるため、太宰治は酒の席で絡まれることを恐れて途中で逃げ帰り、初対面の坂口安吾に対して突然殴りかかるなど、数々の武勇伝が残っている。そんな酒乱エピソードだらけの中也ではあるが「自分の詩を読めば、人は必ず酔うはずだ」という信念のもと、やはり酒よりも詩で酔うほうを第一に生きていたのだ。
ちなみに絵画は絵柄を観て感じて楽しむ世界。いわゆる文字による表現ではないから、どこの国の作品であろうとも、感性のアンテナでメッセージをキャッチしていく。そのフィーリングが合ったら、夢中になって読み解いていける。このような流れに乗って鑑賞できることを作品に酔うと言い、そして、本当のいい酒とは語り合いながら飲む酒であるように、美術鑑賞も仲間と語り合いながら、作品に酔いしれることが最高なのだろう。